所属:神戸大学
研究科:経営学研究科
研究者名:松嶋 登(教授)
本研究は、社会人MBAに通う子育て世代の受講生を主たる対象に、MBA授業と同一キャンパス又は近接地域で展開する体験型の学習プログラム「Kobe Wild Scholars (神戸ワイルド・スカラーズ)」が、受講生の学業と子育ての両立、心理的負担の緩和、学習エンゲージメント、ならびに神戸大学への関与感に与える効果を検討することを目的とします。
具体的には、自然科学体験、モノの循環を介した寄付活動、MBA生主導の職業体験という複数の実践が、MBA受講生の罪悪感や安心感、家族との会話、学習継続意図、大学への心理的近接性にどのような影響を与えるかを明らかにします。あわせて、社会人MBAを受講生個人への教育サービスとしてではなく、家族役割を担う社会人が継続的に学ぶための家族包摂型・循環型の教育サービス設計として捉え直し、その実装可能性と評価指標を検討します。


神戸ワイルド・スカラーズは、六甲山界隈の自然環境や地域団体との連携を活用した子ども向け自然科学体験を基盤とします。昨年度には、こどもMBA(Mountain Based Activities)の一環として、学生主導の体験型学習プログラム開発を行った実績があります。
今年度はその内容を拡張し、自然観察教室の実施時間中に、MBA生から提供された不要になった子ども服を循環させるバザーを試行します。参加者は子ども服を自由に選び、任意の寄付額を決めて購入し、その収益はMBA性の多様な学びを支援する目的で設立された神戸大学多様性基金に寄付することになります。この仕組みを通じて、子ども服という身近なモノの循環を、大学への参加・支援の経験へと接続し、MBA生およびその家族が神戸大学をより近く感じる機会を創出します。
さらに、MBA生が主催する職業体験イベントを実施します。神戸大学MBA生は全員が社会人であり、多様な職業経験を有しています。本イベントでは、MBA生自身の仕事を子どもたちが体験できる企画として設計し、子どもが自分の親や他の社会人がどのような仕事をしているのかを知る機会を提供します。同時に、MBA生にとっては、自身の職業経験を教育資源として再構成し、家族や子どもと共有することで、MBAでの学びと職業生活、家庭生活を接続しなおす機会ともなります。








本研究プロジェクトは、経営学研究科で行っている教育活動とリンクしています。神戸大学経営学部は、1902年に創立された神戸高等商業学校を起源とし、MBAも全国に先駆けて国立大学としては初めてとなる1989年に誕生し、2003年に専門職大学院(現代経営学専攻)として再編成されてきました。神戸大学MBAの特徴は、年末年始以外ノンストップで走り続ける教育プログラムにあります。これは勤務を続けながら土曜日のみ、1年半で卒業できるようにするためです。また、授業はプロジェクト形式で提供されるものが中心となり、授業時間以外でのグループワークなどにも多大な時間が費やす必要があります。
それゆえに、神戸大学MBAへの進学は、職場はもちろん、特に子育て世帯である30代を中心とした学生にとっては、家族に対する理解も必須となっていたわけですが、潜在的にワーク・ライフ・コンフリクトが課題として残され、家族に対しても「後ろめたさ」を感じてきたことは、かつてより指摘されてきたことでした。昨今の働き方改革のもとでこうした状況を放置することは、神戸大学MBAを志す優秀な社会人を取りこぼしてしまうだけではなく、ワーク・ライフ・バランスの重要性を論じてきた経営学を教える大学としても放置すべき課題ではありません。
そして、この問題は、神戸大学MBAに限ったことではなく、教職員や学生、さらに近隣に住む地域の方についても同様です。神戸大学経営学研究科では、2025年度より神戸MBA 多様性基金を立ち上げ、MBAで学ぶ社会人大学院生のためのベビーシッター派遣サービスを始めております(https://b.kobe-u.ac.jp/30207/)。また、研究科の教員は、地域と連携した研究教育活動にも積極的に関わってきた実績を持ち(https://b.kobe-u.ac.jp/center/tourismkobe/research/project/project202603)、社会課題の解決に挑む地域団体とも連携しながら、地域に対して幅広く提供する体験型の環境教育プログラムの開発を目指します。



本研究の成果を広い視点で捉えると、「政府が推進する社会人のリスキリングの支援」、「教育機関と学生との新たな接点創出(教育機関⇄学生の家族)」、「教育機関を通じた地域との接点創出」の3つが挙げられます。これらの成果は、神戸大学に限って必要としているものではなく、他の教育機関にも活動範囲を拡大することで、神戸市全域に様々な効果を生み出すものだと考えています。
そのため、「他大学での実施」と「近隣住民などの対象への追加」を次の研究段階として設定し、「①大学都市神戸産官学連携プラットフォームを通じた他大学との連携」「②一般参加を可能にしたプログラムの実施」「③提供プログラムの選択〜申込が可能なプラットフォームの構築」を実現していくことで、本研究は、神戸市全域のウェルビーイング向上に寄与できるものであると考えています。
