所属:神戸大学
研究科:工学研究科
研究者名:荻野 千秋(教授)
私たちの暮らしを支える農業や食品産業では、作物の収穫・加工、食品の製造・流通・消費の過程で、さまざまな副産物や未利用資源が生じます。例えば、野菜や果実の搾汁残渣、穀類の加工残渣、規格外農産物、食品製造工程で発生する有機性残渣などです。これらは、本来、糖質や有機酸、タンパク質などの有用な成分を含んでいますが、十分に活用されず、処理費用や環境負荷の要因となる場合があります。
本研究では、こうした農業・食品由来の未利用資源を、単に廃棄物として処理するのではなく、新しいものづくりの原料として利用することを目指します。地域で生じた資源を地域の中で有効活用する仕組みを構築できれば、廃棄物の削減に加え、化石資源への依存低減や、地域産業の新たな価値創出にもつながります。


私たちの暮らしや産業を支える化学品、素材、燃料の多くは、現在も石油などの化石資源を原料としてつくられています。持続可能な社会を実現するためには、二酸化炭素(CO2)を単なる排出物として捉えるのではなく、ものづくりに再利用できる炭素資源として活用する新しい技術が必要です。
本研究では、空気中から回収したCO2を、酵母が利用できる酢酸などの原料へ変換し、それを用いて油脂を生産するバイオプロセスの開発を目指します。酵母の中には、取り込んだ炭素源を利用して、細胞内に多くの油脂を蓄積する「油脂生産酵母」が存在します。私たちは、この酵母の能力と培養技術を組み合わせることで、CO2由来の炭素から、化学品や燃料の原料となり得る油脂を効率よく生み出す研究に取り組みます。
酵母が生産する油脂は、化学品や素材への利用に加え、将来的には**持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)**の原料として活用できる可能性があります。航空分野では、長距離輸送などにおいて液体燃料が引き続き重要であり、化石資源に代わる燃料原料の確保は、脱炭素化に向けた大きな課題です。CO2を出発点として得られた油脂をSAF製造へとつなげることができれば、空気中の炭素を回収し、燃料として再利用する新しい炭素循環の構築につながります。
空気中のCO2を回収し、酵母の力で油脂へ変換し、さらに将来の航空燃料へ展開する。本研究は、化石資源への依存を抑えながら、地域・産業・環境に貢献する低炭素型のバイオものづくりを実現するための挑戦です。

私たちの生活に欠かせない衣類は、役目を終えた後、その一部が回収・再利用される一方で、焼却や廃棄に回るものも少なくありません。衣類には、ポリエステルなどの化学繊維や、綿などの天然繊維、さらには複数の素材を組み合わせた混紡繊維が用いられており、着古した衣類を再び高い価値をもつ原料として利用することは、容易ではありません。
本研究では、不要となった衣類を廃棄物として処理するのではなく、微生物や酵素の力によって分解し、新しいものづくりに利用できる資源へと変換する「バイオリサイクル」の実現を目指します。例えば、衣類に含まれる繊維成分を分解し、微生物が利用できる原料や、再び素材生産に利用できる成分として取り出すことができれば、使用済み衣類から新たな化学品や素材を生み出す循環型のものづくりにつながります。
衣類のバイオリサイクルを実現するためには、さまざまな繊維素材や染料、加工剤を含む衣類に対応しながら、効率よく分解・変換する技術の開発が必要です。私たちは、微生物や酵素による分解技術と、得られた原料を用いたバイオものづくり技術を組み合わせ、衣類を分子レベルで資源として循環させる新しいプロセスの構築に取り組みます。
着なくなった衣類を、焼却して終わらせるのではなく、次の製品を生み出すための原料として再利用する。このような技術は、廃棄物の削減に加え、化石資源への依存低減や、衣料・素材産業の低炭素化にも貢献する可能性があります。衣類から新たな価値を生み出すバイオリサイクルにより、資源を繰り返し活用する持続可能なものづくり社会の実現を目指します。
