研究科:口腔外科
教授名:筧 康正(特命講師)
皆様もご経験があるように、通常抜歯に伴う痛みは施術後2,3日が痛みのピークであり、1週間程度は痛みが続きます。痛み止めは服薬から30分ほどで効果が現れ、4~6時間程度効果が持続しますが、その後効果は薄れ、つらい思いをすることになります。
さらに下の親不知の手術後になると痛みそのものが非常に強いため、痛み止めをより頻繁に、多量に飲む必要があります。
こうした問題は我々の神戸大学病院だけで起きているのではなく、世界中で同じです。そのため、つらい、仕事も休まざるを得ない、日常生活に支障をきたす、というような患者さんのお声を聴いていても、痛み止めを処方し、鎮痛剤が切れても我慢する選択肢しか提供できていませんでした。
ですが患者さんの声を間近で聞く機会も多く、なおかつ薬剤の開発もできる大学病院にいる我々だからこそ、できることがあるのではないかと思い研究を始めました。
現代人は顎が小さく親知らずがまっすぐ生えることができないため、親不知は多くの場合、横倒しになっていて、骨の中に埋まっています。
埋まっている親不知の周りの骨を削り出し、歯を分割して抜いていくことになります。当然抜歯後は穴が開き、そこに血液がたまり、線維状になり、骨化していくことで治癒します。その肉になる過程で痛み止めを服薬していくことになるのですが、通常の飲むタイプの痛み止めですと胃で分解吸収され、全身にいきわたってしまうため、患部に作用する鎮痛成分は飲む量に比べて非常に僅かな量なのです。
そこで我々は独自に開発した水に溶けにくいゲル状の鎮痛剤を患部に入れ、鎮痛成分を少しずつ患部に直接作用するような開発を行っています。口から飲んで胃で吸収するのに比べ、100分の1の量の成分で効果があり、また効果時間も非常に長くなることが確認されています。
そうですね、現在我々は動物試験での安全性試験だけでなく、人での試験も行っています。様々な条件で試験しているのですが、痛み止めの量を極端に減らせた患者さんも出てきています。痛み止めはたくさん飲むと腎臓に悪影響があることは知られており、胃も荒れやすくなりますし、腎臓に持病を抱えていらっしゃる方はロキソニンRやボルタレンR等の強い成分の痛み止めが使えないため、より抜歯後のつらさは患者さんの負担になるのです。そういった課題も解決していけると考えています。
先ほど申し上げた通り動物での安全性試験を終え少人数の健康的な成人の方での安全性試験を行いました。現在は「有効性」と「安全性」の確認、最適な「投与量」や「投与方法」の決定のためより大規模な試験を予定しています。その後国による審査や承認、製薬企業との連携を行っていく予定です。そのため、多くの方のご支援をぜひ頂戴したいと思っています。
抜歯ってやはり皆さんつらいイメージがあると思います。でもペーストを入れることで、抜歯後の痛みが減れば、鎮痛剤が持続的に効くことで痛み止めが切れる心配も減ってその恐怖が減って、痛み止めの服用も少量で済めば、副作用も少なくなって、飲み忘れるも減れば、患者さんからすると気軽に親知らずを治療できる世の中になるんじゃないかと思っています。
また、人手不足や財源不足で医療資源が限られてくる世の中において、こういった局所への効果的な治療法は少ない医療資源でできるため、医療費の削減になると思っていますし、病院やクリニックにとっても患者さんの術後の負担の軽減は非常に魅力的な薬剤になるのではないかなと考えています。
個人的な思いとしてはどうしても開発に多額の資金をかけられる諸外国に比べて、日本の創薬にもっと元気になってほしいし、発想を変えたありそうでないシンプルで早急な開発品を作ることで、このような開発で少しでも貢献できればと思っています。
抜歯に関する患者さんの声にこたえるため、日夜臨床とともに薬の研究開発を行っています。少しでも多くの皆様のご支援を頂戴できると幸いです。