研究科:医学研究科
教授名:森 康子(教授)
私の研究室では、『脅威となるウイルス感染症に対する診断・治療薬の開発』を進めています。特に、目覚めたウイルスを迅速に検出し、一気に叩く診断・治療薬の実現を目指しています。
臓器移植は、多くの患者さんにとって新たな命を繋ぐ希望です。しかし、拒絶反応を抑えるために投与される免疫抑制剤によって、患者さんの免疫機能は著しく低下してしまいます。この免疫機能の低下が、体内に潜んでいたウイルスを活性化・増殖させる原因となるのです。特に深刻なのは、造血幹細胞移植や臍帯血移植後に再活性化・増殖するヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)です。このウイルスは、致死的な脳炎を引き起こす危険性があり、移植が成功し、もともとの病気が治ったとしても、ウイルス感染症によって命を落とすケースが現状として存在します。ほぼすべての人が子供の頃にHHV-6Bに初感染し、HHV-6Bは、生涯に渡ってその体内に潜みます。時に初感染時に脳炎を発症することがあり、HHV-6B感染は、その子供の将来を大きく変えてしまうこともあるのです。100%の人の体内にいる身近な病原体であるにもかかわらず、現在のところ、このウイルスに対する有効な診断法や治療法は確立されていません。
私たちは、この脅威に対抗するため、二つの柱で研究を進めています。一つは、ウイルスが活性化した際に迅速に検出できる診断薬の開発。もう一つは、ウイルスの増殖を阻止する抗体医薬の開発です。
HHV-6Bの感染診断には主にPCRを用いたゲノム検出法がありますが、抗体を用いた抗原検出法は、特別な機器を必要とせず、簡便かつ迅速に検査キット化が可能です。これにより、臨床現場に限らず、職場や一般家庭でもウイルスの検出が可能になります。
また、HHV-6Bは他のヘルペスウイルスに有効な抗ウイルス薬の効き目が弱いため、ウイルスの感染を抑止できるモノクローナル抗体を用いた中和抗体医薬は、HHV-6B治療薬として有望な候補と考えています。
はい、これまでの研究で、すでに効果的な複数の診断薬と抗体薬を得ており、特許出願も予定している段階です。
私たちは長年にわたりHHV-6Bの研究を続け、ウイルスが発現する様々な抗原を検出可能なモノクローナル抗体を取得してきました。具体的には、マウスへの抗原接種により多くのモノクローナル抗体産生細胞を取得しています。これらの抗体の中には、ヒト配列化した人工抗体の発現系を確立しているものも複数あります。
過去にはHHV-6Bの感染に有効な中和抗体として特許出願も行いましたが、今回は、これまでの経験と実績に基づき、さらに優れた性質を持つ抗体を取得し、社会実装を目指します。
「私たちの最終目標は、これらの研究成果を一日も早く社会実装することです。現在、抗原検出に関する製品や定式化された手法は存在せず、私たちの開発する抗原検出法は競合がなく、既存のPCR法に対しても迅速性や簡便性で優位性があります。このため、小児科医、血液内科医、皮膚科医といった臨床現場からも、抗体医薬や抗原検査キットの開発を強く待望する声が上がっています。
今後は、本研究で取得するモノクローナル抗体を、診断薬あるいは治療薬の開発を目的とする企業へ技術提供できるよう、基礎データの収集を進めます。また、日本医療研究開発機構(AMED)事業公募などへの共同応募を通じて、産学官連携を想定した実用化推進研究への資金獲得も目指しています。
この画期的な診断・治療薬を医療現場に届け、患者さんの命を救い、移植医療の安全性を高めるためには、皆様からの温かいご支援が不可欠です。私たち研究者は、できるだけ早く患者さんにこの成果を届けたいと強く願っています。そのためには、研究費が多ければ多いほど、早期に実験を進め、最終的な治験へと進むことができます。
皆様のご支援をどうぞよろしくお願いいたします。