所属:神戸大学
研究科:皮膚科
研究者名:福本 毅(非常勤講師)
私たちは毎日、知らず知らずのうちに紫外線を浴びながら生活しています。紫外線は単に日焼けを起こすだけではありません。皮膚の細胞にDNA損傷を蓄積させ、老化や慢性的な炎症を引き起こし、最終的にはがん発症へとつながることが知られています。シミやシワといった見た目の変化が顕在化するずっと以前から、皮膚の中では“老化”と“炎症”が静かに進行しているのです。
近年では、地球環境の変化による紫外線量の増加や、高齢化社会の進行に伴い、紫外線による老化や疾患の増加は世界的な課題となりつつあります。しかし現在の医療は、「紫外線を浴びないようにする」ことを中心に成り立っています。日焼け止めや遮光は重要ですが、現実には紫外線を完全に避けることはできません。屋外で働く方々やスポーツを行う子どもたち、そして日光に極めて弱い難病患者さんにとって、紫外線を完全に避けながら生活することは非常に困難です。
私たちは、「紫外線を浴びた後」に皮膚の中で始まる老化と炎症の連鎖そのものを止めることができれば、これまでとは全く異なる新しい予防医療が実現できると考えています。単にシミやシワを防ぐだけではありません。老化や慢性炎症、さらには将来的ながん発症へとつながる「見えない悪循環」を抑えることが、私たちの研究の出発点です。

紫外線を浴びた皮膚では、目には見えない大きな変化が起きています。皮膚の細胞ではDNAに傷が蓄積し、その一部は修復されないまま残ってしまいます。すると細胞は、本来の正常な働きを失いながらも死なずに生き続ける「細胞老化」と呼ばれる状態に入り、周囲へ炎症を広げる物質を放出し始めます。私たちは、このような細胞を「ゾンビ細胞」と呼んでいます。
ゾンビ細胞の厄介な点は、自分自身が傷ついているだけでなく、周囲の健康な細胞にも次々と炎症を波及させてしまうことです。こうした慢性的な炎症の連鎖は、皮膚全体の老化を加速させ、シミやシワだけでなく、慢性的な皮膚障害や将来的ながん発症にもつながる可能性があります。つまり、紫外線によるダメージは、一時的な日焼けで終わるものではなく、長い年月をかけて皮膚の老化や疾患を進行させていくのです。
私たちは10年以上にわたり、この「細胞老化」と「炎症の連鎖」の研究に取り組んできました。そして近年、紫外線によって生じたゾンビ細胞が、皮膚老化や疾患進行において中心的な役割を果たしていることを明らかにしてきました。さらに現在は、この炎症の広がりを抑えることで、紫外線による老化や将来的ながん発症さえも制御できる可能性が見えてきています。
これは、これまでの「紫外線を浴びないようにする医療」から、「紫外線を浴びた後のダメージを抑える医療」への大きな転換です。私たちは今、がんを「治療する」だけではなく、「そもそも発症させない」未来を目指し、新しい予防医療に挑戦しています。

私たちが開発を目指しているのは、「紫外線を浴びてしまった後」に使用する、世界初の新しい外用薬です。これまでの紫外線対策は、日焼け止めや衣服による遮光など、紫外線を「浴びないようにする」防御が中心でした。しかし現実には、どれほど注意をしていても紫外線を完全に避けることはできません。そこで私たちは、紫外線によって皮膚の中で始まる「老化」と「炎症の連鎖」を抑える、これまでにない治療戦略にたどり着きました。
私たちの研究では、紫外線ダメージによって引き起こされる慢性的な炎症を制御する有望な分子を見出し、すでに特許出願も完了しています。さらに、動物実験では実際に炎症を抑える効果が確認されており、研究は基礎研究の段階から、実用化を見据えた新しいフェーズへ進みつつあります。現在は、より安全で使いやすい外用剤として完成させるため、製剤化、安全性評価、実用化に向けた研究を進めています。
私たちが目指しているのは、単なる「治療薬」ではありません。紫外線によって引き起こされる慢性的な炎症や細胞老化を抑えることで、老化の進行だけでなく、将来的ながん発症そのものを防ぐ、新しい時代の「がん予防医療」です。現在の医療は、「がんになった後」の治療を大きく進歩させてきました。しかし本当に目指すべき未来は、そもそも「がんにならない社会」ではないでしょうか。もしこの研究が実現できれば、世界中の人々の「老化」と「がん」の予防につながる可能性があります。

私たちは、この研究を通じて、「がんを予防する医療」のあり方そのものを変えたいと考えています。これまで紫外線は、「避けるしかないもの」と考えられてきました。しかし将来的には、紫外線によるダメージを医学的に制御し、細胞老化や慢性炎症の進行を抑えることで、将来的ながん発症そのものを防ぐ時代が訪れるかもしれません。
現在の医療は、「がんになった後」の治療を大きく進歩させてきました。しかし本当に目指すべき未来は、そもそも「がんにならない社会」ではないでしょうか。私たちは、紫外線による慢性的な炎症と細胞老化を抑えることで、老化や疾患の進行を防ぎ、将来的ながん発症そのものを抑える、新しい予防医療に挑戦しています。
さらに本研究は、一般的な皮膚老化や慢性炎症だけでなく、日光に対して極めて脆弱な難病患者さんへの応用も期待されています。このような日光過敏を生じる一部の患者さんやそのご家族は、幼少期から厳格な遮光生活を余儀なくされ、日常生活に大きな制限を抱えています。私たちは、そうした方々にも新しい選択肢を届けたいと願っています。
紫外線による「見えないダメージ」を制御するという予防戦略は、これからの高齢化社会において極めて重要な医療概念になると私たちは考えています。さらに、私たちが開発を目指しているのは“外用剤”であるため、内服治療が難しい子どもたちにも使用しやすく、将来的には子どもから高齢者まで幅広い世代で活用できる可能性があります。この研究が実現すれば、「がんを治療する医療」から、「がんを未然に防ぐ医療」へ、世界の医療の流れを変える大きな一歩になると、私たちは信じています。
