自分の免疫力で難治がんを治す研究-2026

転移があっても適応となる新たな免疫・放射線増感療法

所属:神戸大学
研究科:医学部附属病院
研究者名:佐々木 良平(教授)

現在のがん治療について教えてください。

がんを根本的に治すことを目指す治療には、主に「手術」と「放射線治療」があります。特に近年の放射線治療は大きく進歩しており、IMRT(強度変調放射線治療)や定位放射線治療などの新しい技術によって、正常な組織への負担を減らしながら、がんをより正確に治療できるようになってきました。そのため、以前よりも多くの患者さんが放射線治療を選択する時代になっています。

しかし一方で、がんが最初にできた場所(原発巣)だけでなく、肺や肝臓、骨など他の臓器へ広がってしまった「転移がん」の場合には、手術や放射線治療だけで完全に治すことが難しいケースが少なくありません。現在の医療では、このような進行がんに対する新しい治療法の開発が強く求められています。

その中でどんな治療法を開発されているのですか

私たちは現在、「過酸化チタンナノ粒子」「放射線治療」「免疫チェックポイント阻害剤」を組み合わせた、新しいがん治療の開発に取り組んでいます。この治療法は現在、特許を出願中です。

中心となるのは、私たちが独自に開発した「過酸化チタンナノ粒子」です。この微小な粒子ががん細胞の中に取り込まれた状態で放射線を照射すると、がん細胞が強く傷つき、がんの目印となる「がん抗原」が放出されます。すると体の免疫システムが「これは攻撃すべき異物だ」と認識し、がんを攻撃する“キラーT細胞(細胞傷害性T細胞)”が大量に活性化されます。

さらに免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、この免疫反応がより強く引き出され、患者さん自身の免疫細胞が全身のがんを攻撃することを目指しています。

これまでの放射線治療は「局所を治療する医療」でしたが、私たちは、この技術によって「全身のがんと戦う放射線治療」へ進化させたいと考えています。

どうしてそのような研究を始められたのですか?

私は30年以上にわたり、放射線治療医として多くのがん患者さんと向き合ってきました。その中で、手術や放射線治療を行っても治すことが難しい患者さんや、再発・転移に苦しむ患者さんを数多く見てきました。

「がんになっても、その人らしく笑顔で人生を過ごしてほしい」。その思いが、私の研究の原点です。

放射線治療は、体への負担を比較的抑えながらがんを攻撃できる優れた治療法ですが、すべてのがんに十分な効果が得られるわけではありません。中には、放射線が効きにくい“手ごわいがん細胞”も存在します。

そこで私は、放射線治療の効果をさらに高めるためには、「放射線増感剤」と呼ばれる補助的な薬剤の開発が重要だと考えるようになりました。放射線増感剤とは、がん細胞を放射線に対して弱くし、より効きやすくするための技術です。しかし現在の医療では、十分な効果を持つ増感剤はまだ限られているのが現状です。

だからこそ私たちは、新しい発想から「過酸化チタンナノ粒子」を開発し、放射線治療と免疫治療を組み合わせることで、これまで治療が難しかったがんにも挑戦したいと考えています。

従来の放射線治療と比べてどう画期的なのでしょうか

私たちが開発している「過酸化チタンナノ粒子」「放射線治療」「免疫チェックポイント阻害剤」を組み合わせた3者併用療法は、これまで放射線が効きにくいとされてきたがんにも効果が期待できる、新しい治療法であり、Burst therapyと命名しました。

従来の放射線治療は、基本的に“照射した場所だけ”に効果を発揮する局所治療でした。しかし、この治療法では、放射線によって傷ついたがん細胞から放出された情報をきっかけに、患者さん自身の免疫細胞が全身のがんを攻撃する可能性があります。

その代表的な現象が「アブスコパル効果」です。これは、放射線を当てていない遠くの転移がんまで小さくなる現象で、近年世界中で注目されています。つまり、これまで「転移があるため放射線治療の適応が難しい」と考えられていた患者さんにも、新たな治療の可能性が広がるのです。

また、これまでは転移がんに対して化学療法が中心でしたが、この治療法が実用化されれば、より身体への負担を抑えながら治療できる新しい選択肢になる可能性があります。

さらに私たちの研究では、治療後に再発を抑える“ワクチンのような効果”も期待できることが分かってきました。つまり、一度活性化された免疫細胞が、再び現れるがん細胞を見つけて攻撃し続ける可能性があるのです。

私たちは、この治療法によって、放射線治療を「局所治療」から「全身のがんと戦う治療」へ進化させたいと考えています。

放射線治療そのものを変えるような画期的なご研究ですね。

ありがとうございます。私たちは、この治療法が将来的に、がん治療全体を大きく変える可能性を持つと考えています。

この治療法は、転移がある患者さんだけでなく、さまざまな理由で手術が難しい患者さんにも応用できる可能性があります。例えば、高齢で体力が低下している方や、がんの場所や進行状況によって手術ができない患者さんにも、新たな治療の選択肢を提供できるかもしれません。さらに、進行がんや、現在まだ十分な治療法が確立されていないがんへの応用も期待しています。

現在のがん治療では、「ファーストライン治療」と呼ばれる標準治療で十分な効果が得られなかった場合、抗がん剤などによって病気の進行をできるだけ抑える治療が中心になります。しかし、そのような状況では、患者さんやご家族が「次に何を頼ればいいのか」と大きな不安を抱えることも少なくありません。

私たちは、この治療法が将来的に確立されることで、これまで有効な選択肢が限られていた患者さんに、新たな可能性と希望を届けられるのではないかと考えています。

「もう治療法がない」と言われた患者さんにも、“まだ挑戦できる治療がある”――そう思っていただける未来を目指して研究を続けています。

世界中でがん治療の研究がなされている中で先生だからこそできるという点はあるのでしょうか。

 新しい治療法を研究成果だけで終わらせず、実際に患者さんへ届けるまでには、非常に長い年月と多くの困難があります。そこには研究者自身の強い想いだけでなく、多くの仲間や支援者との協力が欠かせません。

私自身、これまでにも外科の福本巧教授らと共同で、「ネスキープ」という吸収性スペーサーを用いた新しい治療法の開発に取り組んできました。この治療法は、近くに消化管など重要な臓器があるため、これまで安全に放射線治療や粒子線治療を行うことが難しかった患者さんに対して、治療を可能にする技術です。

この技術は実際に医療現場で実用化され、すでに日本国内で800名以上の患者さんに提供されています。現在は保険適用のもと、多くの患者さんに根治を目指した治療が行われています。その成果が評価され、2024年には文部科学大臣表彰を受賞することができました。

患者さんの中には、この治療によって回復し、その後お子さんを出産された方もいらっしゃいます。私は、医療において「希望を持てること」は非常に大切だと考えています。

そして今回の新しい治療法も、まさにその延長線上にあります。

さらに、この研究は私一人では決して実現できませんでした。神戸大学には、医学、工学、農学など、異なる分野の研究者が協力し合う「異分野共創」の文化があります。今回の過酸化チタンナノ粒子も、神戸大学大学院工学研究科の荻野一善教授との共同研究から生まれました。

異なる専門分野の知識や技術が結びつくことで、これまでの医療では「治らない」「治せない」と考えられてきた常識を変えられる可能性があります。

私は、患者さんに新しい希望を届けるために、これからも仲間たちと共に挑戦を続けていきたいと思っています。

今回ガバメントクラウドファンディングの形式で寄付を募られている理由というのはどこにあるのでしょうか

がん治療は、今まさに日進月歩で進化しています。しかし、新しい治療法を実際に患者さんへ届けるまでには、非常に長い時間と多くの研究・検証が必要です。私たち研究者も、そして国の審査機関も、安全で有効な治療を一日でも早く患者さんへ届けられるよう努力を続けています。

その中で、一般の方にも「新しい治療法を育てる一員」として関わっていただける方法の一つが、今回のガバメントクラウドファンディングだと考えています。もちろん治験への参加も大切ですが、まずは多くの方に、がん治療の研究開発そのものに関心を持っていただきたいのです。

がんは、誰にとっても決して他人事ではありません。ご自身やご家族、大切な人が、ある日突然がんと診断される可能性があります。そして一度がんになると、多くの患者さんやご家族が、長く厳しい闘病生活に向き合うことになります。

だからこそ、「新しい治療法の開発」は研究者だけの課題ではなく、社会全体で支えていくべき身近なテーマだと私たちは考えています。少しでも多くの患者さんに、“まだ希望がある”と思っていただける未来をつくりたいのです。

もちろん、研究を前に進めるためには資金も必要です。これから私たちは、この治療法を人に安全に使用できるかを確認するための非臨床試験を行います。また、金属ナノ粒子を人体へ投与した際の安全性や副作用についても、慎重に調べていかなければなりません。

現在の計画では、3年後に初めて人へ投与する臨床試験を開始し、順調に進めば2030年頃の実用化を目指しています。

しかし、より多くの支援をいただくことができれば、研究や試験をさらに加速させることができます。そしてそれは、1日でも早く新しい治療を患者さんへ届け、救える命を増やすことにつながると考えています。

ありがとうございます。支援を検討されている皆様にひとことお願いいたします。

私が日々の診療で強く感じているのは、「放射線治療には、まだ越えられていない壁がある」ということです。

放射線治療は、がんがある場所を狙って治療することには非常に優れています。しかし、すでに他の臓器へ転移してしまった場合には、「根治を目指す治療」として適応できないことが多いのが現実です。

患者さん自身が「放射線治療で治したい」と希望されても、転移があるという理由だけで、その選択肢を持てないことがあります。それは手術でも同じです。

しかし実際には、多くの患者さんが、診断された時点ですでに転移を抱えています。つまり現在の医療だけでは、まだ多くの患者さんを根治へ導けていないのです。

だからこそ、私たちは新しい治療法を開発し続けなければならないと考えています。今この瞬間にも、手術でも放射線治療でも治すことが難しい患者さんが数多くおられます。私は、その患者さんやご家族に、少しでも希望を届けたいと思っています。

そして、その未来を実現するためには、一人でも多くの方のお力が必要です。皆様からのご支援は、新しい治療法の開発を加速させ、患者さんへ希望を届ける日を早める力になります。

どうか、私たちの挑戦にご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

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